【技能実習】人材難の鉄道業界、「外国人活用」で解決するか

toyokeizaiからの発表資料

技能実習に鉄道施設保守整備職種の追加が内定している中での、鉄道業界の現状と課題に関する記事です。

少子高齢化・生産年齢人口の減少が社会問題と言われて久しいが、鉄道業界にも例外なくその波が押し寄せてきている。鉄道現場、特に保線系の係員不足については、重労働かつ深夜帯の作業であることからも忌避されているのが実情だ。さらには、現場部門のアウトソーシング化へのシフト、あるいは働き方改革による労働時間の制限なども相まって、一層困難を極めている様相だ。

JR西日本は2021年3月のダイヤ改正で終電時刻を繰り上げる意向を示している。運転現場の勤務体系もさることながら、夜間における保守作業を限られた人材にて行わなければならないという制限も含めての検討と考えられる。

そんな中、近年多くの業種にて増加傾向にある「外国人材の受け入れ」は、鉄道においても検討され始めている。厚生労働省では「鉄道施設保守整備職種」について、昨年10月時点で「技能実習」の職種に追加する改正案としてあげている。国内の外国人労働者数はここ数年で急激に増加しており、そのポジションは多くの業界に広がっている。特にこの技能実習生の出元となる東南アジア各国では都市部を中心に鉄道整備が進んでいるため、日本で技能を習得して母国で活用するというのが目的だが、業界の人材不足にも応える形になりそうだ。

国内における鉄道外国人材の動き

鉄道における外国人人材の登用の動きは、例えばJR東日本は1993年より「JR East フェローシップ研修」の中でアジア諸国より毎年数名の海外の鉄道職員を比較的早い段階から受け入れ続けている。

加えて、先進国の鉄道技術や知識の共有を図るため、ドイツ鉄道をはじめとする海外事業者との人事交流による研修プログラムも、長きにわたり行われている模様だ。

また、同社の経営ビジョン「変⾰ 2027」の中で「国際鉄道⼈材の育成」を掲げており、それに沿った形で2019年時点には、「JR東⽇本 Technical Intern Training」というプロジェクトの下、ベトナムから技能実習生11名の受け入れを公表している。

その中にはベトナム鉄道からの人員も含まれており、現在の技能実習制度を活用した3年間の実習を計画しているとのことで、業務内容は鉄道車両の冷房装置のメンテナンス業務を担当している。その他、東京メトロではフィリピン運輸省職員を研修として受け入れるなど、近年その動きが活発化しているともいえる。

在留資格の制度がネック

外国人労働者が日本国内で就労する際に必ず問われるのが在留資格だ。まず、グローバル企業が海外転勤を行う場合の「企業内転勤」、大卒やある程度の就労実績・スキルをもとに資格審査がなされる。「技術・人文知識・国際業務」など要件はさまざまではあるが、いずれも一定のキャリアや学歴が問われる、いわゆるホワイトカラーの職種だ。また、先述のJR東日本におけるドイツ鉄道やミャンマー国鉄からの研修制度、あるいは東京メトロでフィリピン運輸省職員を受け入れについては、「研修」の在留資格で行われたものだ。

海外人材の技術や知見の共有も大きな目的の一つであるが、しかしながらこれらの多くはあくまで「研修」という枠組みであり、腰を据えて働くことが目的ではない。もちろん期間もあらかじめ定められており、この場合最大でも1年間となっている。基本的には実務につくこともできないので、労働力とはいえない。

一方、昨年より検討されている「技能実習」にて労働することに関しては、「研修」とは在留資格区分が異なり、更新も含めて最長5年間もの就労期間がある。ただし、「技能実習」のカテゴリーで働きたい場合、移行対象職種・作業一覧にて定められた現在82職種148作業でなければ技能実習の資格で就労できない決まりになっている。先述のベトナムからの実習生については、対象職種が「冷凍空気調和機器施工」という枠組みに当てはまっており、研修ではなく実務として車両の空調メンテナンスを中心に作業している。ただ、鉄道への関わり方でいえば、まだ間接的なものである。このほど検討されている「鉄道施設保守整備職種」というのは、線路上の保線作業を行うもので、もっと直接的な業務である。

この区分については実習計画によって厳しく定められている。例えば、昨年日立製作所は国が認めた技能実習計画と異なる業務を行わせていたことにより所轄官庁から改善命令を受けた。

このように技能実習において計画と異なる業務をすることは許されておらず、違反した場合は処分対象となる。こういった制度も安易に外国人採用を進められない要因の一つでもある。

鉄道現場での課題は山積み

技能実習生のうちの国籍の多くを占めるベトナムは、日本とは正反対に人口約9000万人のうち約8割が40歳以下と言われる。であれば、法令さえ整えば日本に足りない働き盛りの優秀な人材を、国も企業もなんとか採用したいのも事実だ。

しかし、技能実習にはさまざまな課題が多いことも知られている。制度の不透明さから低賃金での労働・劣悪な生活環境など、人権侵害の温床とまで言われている。ただし、先述のJR東日本におけるベトナムの技能実習生については、賃⾦・福利厚⽣を社員と同等とするとしておりひとまず安心ではあるが、全体的にこの辺りがクリアになることも望まれている。一方、鉄道現場では当然のことながら法規類・マニュアル、外国人材を受け入れられる労務環境を整えてからでないと採用も進められないのも当然だ。

最大の問題は言語・コミュニケーションだ。技能実習生には日常会話ができる要件があるが、その基準も不明確で、さらに社会経験のないような人材が入るため、言語の問題もさることながら日本での商慣習や新しい業務までも習得しなければならない。ただでさえ新しい環境に慣れることは難しいのに、それが異国の地であると余計に多くのハードルが待ち受けているだろう。それに合わせて文化・慣習の違いも大きな影響を及ぼし、鉄道業界では安全に対する確認行動の励行、時間を守るなどの基本的なルールを教示することから始めなければならない。

ほかにも「技術の伝承」も大きな課題点である。そもそも技能実習制度というのは、人材育成を通じた開発途上地域などへの技能移転による国際協力の推進が目的となっている。つまり帰国してそのノウハウを活かすのが表面上にある。「技能実習評価試験の整備等に関する専門家会議」の中で、技能実習第3号の修了時には作業長レベルを目指すことも含まれており、そこには「高度な作業を実施できること、あるいは各作業を従事員に指導できること」が検討されているようだ。今後、技術伝承がものを言う保守整備の職種で、目下の人材不足解消と後継者育成という両面を、制限の多い技能実習の中で、次にバトンがうまく渡るのかも懸念点ではある。

多くの事業者で人材不足問題があるものの、穴埋めのように足りないピースを埋められるという簡単な話ではなさそうだ。一つの伝達ミスから大きな事故につながる可能性もある鉄道だけに、慎重なルールの制定が求められるだろう。

<参照:東洋経済からの発表資料より>